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広島地方裁判所 昭和44年(わ)140号 判決

本籍

愛媛県周桑郡壬生川町大字吉田三三九番地

住居

呉市西中央四丁目三の五

会社代表取締役

日野義行

大正一一年二月一五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官平山勝信出席の上、審理をして次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月および罰金六〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、肩書住居地(当時の住居表示は呉市古川町二七番地)に居住し、同市中通り六丁目一二番地ほか二か所に店舗を設けてパチンコ、スマートボールの遊技場「オアシス」を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、架空名義の銀行預金を設定し、土地あるいは建物の取得価額を圧縮し、もしくは簿外で高級観葉植物を取得するなど不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一、昭和四〇年分の所得金額は別紙修正貸借対照表〔Ⅰ〕記載のとおり、二、二一四万四、四三七円であり、これに対する所得税額は別紙税額計算書記載のとおり、一、〇六七万一、一八〇円であつたのにかかわらず、昭和四一年三月一〇日同市公園通り四丁目二番地所在の呉税務署において、同税務署長に対し、右年分の所得金額が一八一万七、八六二円、これに対する所得税額が二七万六、六一〇円である旨虚偽の確定申告書をを提出し、もつて右年分の正規の所得税額一、〇六七万一、一八〇円と右申告税額との差額一、〇三九万四、五七〇円をほ脱し、

第二、昭和四一年分の所得金額は別紙修正貸借対照表〔Ⅱ〕記載のとおり一、一四四万二、八七六円であり、これに対する所得税額は別紙税額計算書記載のとおり四六一万三、五九〇円であつたのにかかわらず、昭和四二年三月一五日前記税務署において、同税務署長に対し、右年分の所得金額が三二一万五、〇〇八円、これに対する所得税額が六八万八、九六〇円である旨虚偽の確定申告書を提出し、もつて右年分の正規の所得税額四六一万三、五九〇円と右申告税額との差額三九二万四、六三〇円をほ脱し、

第三、昭和四二年分の所得金額は別紙修正貸借対照表〔Ⅲ〕記載のとおり一、二四六万四、三一九円であり、これに対する所得税額は別紙税額計算書記載のとおり五一三万六、三〇〇円であつたのにかかわらず、昭和四三年三月一五日前記税務署において、同税務署長に対し、右年分の所得金額が一五九万七、〇三六円、これに対する所得税額が一七万二、〇〇〇円である旨虚偽の確定申告書を提出し、もつて右年分の正規の所得税額五一三万六、三〇〇円と右申告税額との差額四九六万四、三〇〇円をほ脱し、

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき、

一、第二回、第三回公判調書中被告人の各供述部分

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、被告人の大蔵事務官に対する質問顛末書一〇通

一、日野八重子の検察官に対する昭和四四年三月一〇日付供述調書

一、第二一回、第二二回、第二四回、第二六回、第二七回各公判調書中証人日野八重子の各供述部分

一、高松武志作成の上申書

一、大蔵事務官作成の調査事績報告書二通

一、押収してある

(1)  昭和四〇年ないし昭和四二年分の所得税の確定申告書三枚(昭和四四年押第九八号の二九ないし三一)

(2)  青色申告者書類つづり一冊(同号の三四)

(3)  昭和三九年度総勘定元帳一冊(同号の二二)

(4)  昭和四〇年度総勘定元帳一冊(同号の二三)

(5)  昭和四一年度総勘定元帳一冊(同号の一四)

(6)  昭和四二年度総勘定元帳一冊(同号の一五)

別紙各修正貸借対照表中現金、普通預金、定期預金、定期積金、受取利息(預金利息)、給付備金の各勘定科目につき、(以下単にたとえば「現金勘定科目につき」のように略記する)

一、東邦相互銀行壬生川支店長、同銀行丹原出張所長(二通)、同銀行呉支店長、阿賀信用金庫理事長(昭和四三年一二月六日付)、住友銀行呉支店長(昭和四三年一〇月三〇日付、同年一二月三日付)、広島銀行呉支店長(二通)、三菱銀行丸の内支店長、協和銀行広島支店長、信用組合広島商銀呉支店長、呉信用金庫本通支店長、千葉相互銀行柏支店長、松谷政昭、富岡武志、岡崎秋三作成の各証明書

一、太田嗣郎、中村正義、久保勝則作成の各上申書

一、木下義美、正力久幸、植田和、前田一雄、清水一男(二通)、石原ミネ(二通)、堀益正義、半田一穂、山本等の大蔵事務官に対する各質問顛末書

一、第六回公判調書中証人久保勝則の供述部分

一、第七回公判調書中証人正力久幸の供述部分

一、大蔵事務官作成の現金有価証券等現在高検査てん末書四通

一、高橋盛繁、友清政子、田中久美子、岡田静子、浜崎梅乃名義の各定期預金元帳謄本

一、住友銀行呉支店長湯川昭久作成の証明書(昭和四五年二月五日付)

一、押収してある

(1)  「仮証」と題する受領証三通および勘合票一通(前同号の九の一、二)

(2)  定期預金メモ三枚(前同号の一七)

(3)  偽名定期預金期日管理メモ二枚(前同号の一八)

(4)  「日誌」と題するノートブツク一冊(前同号の二六)

(5)  諏訪慎二外六名名義の普通預金元帳一八通(前同号の二八の一)

(6)  石橋敏和外五名名義の定期積金元帳六通(前同号の三五)

有価証券勘定科目につき、

一、大蔵事務官木島正作成の現金有価証券等現在高検査てん末書

一、日本電信電話公社発行の割引電信電話債券写一六枚

一、呉電報電話局長作成の電話加入原簿登録事項証明書二通

土地勘定科目につき、

一、畦本包雄の大蔵事務官に対する質問顛末書

建物勘定科目につき、

一、第九回公判調書中証人永野昇の供述部分

パチンコ機勘定科目につき、

一、日野博行の大蔵事務官に対する質問顛末書

一、田毅作成の証明書

マジック仕掛工事、未払金勘定科目につき、

一、山崎義孝の大蔵事務官に対する質問顛末書

一、山崎義孝作成の上申書

一、有限会社白井金属商会取締役社長湊五郎作成の証明書

貸付金勘定科目につき、

一、北川玉一の大蔵事務官に対する質問顛末書

仮払金勘定科目につき、

一、第九回公判調書中証人永野昇の供述部分

一、押収してある領収証二通(前同号の八の一、二)

店主(生活費)勘定科目につき、

一、第二三回公判調書中証人石丸キヨカ、同向井千代子の各供述部分

店主(長女純江の芸大入学費)、同(同芸大月謝)、同(同芸大宿舎費)各勘定科目につき、

一、女子美術大学経理課発行の「入学納入金等についての回答」と題する書面(添付の証明書を含む)

一、押収してある封書一通(前同号の一六)

店主(地代)勘定科目につき、

一、押収してある

(1)  借地証一通(前同号の三二)

(2)  領収書綴一冊(前同号の三三)

店主(生命保険料)勘定科目につき、

一、日本生命保険相互会社広島東支社長作成の証明書

一、第一生命保険相互会社広島支社長作成の取引内容照会回答書(添付の証明書を含む)

一、平和生命保険株式会社広島支社長作成の保険料払込状況回答書

店主(清楽寺外寄附金)勘定科目につき、

一、押収してある清楽寺発行の「証」と題する領収証一通(前同号の一二)

一、押収してある万年寺発行の「証」と題する領収証一通(前同号の一)

店主(建物)勘定科目につき、

一、第九回公判調書中証人永野昇の供述部分

一、第八回公判調書中証人大木与一の供述部分

一、第一〇回公判調書中証人上垣邦夫の供述部分

一、第六回公判調書中証人松谷一郎の供述部分

一、第七回公判調書中証人松谷政子の供述部分

一、森三郎、新井孝雄の大蔵事務官に対する各質問顛末書

一、米田健次、平岡孝男作成の各証明書

一、株式会社藤野材木店取締役社長藤野茂作成の上申書

一、押収してある

(1)  売掛帳(前同号の四一)

(2)  現金出納帳(前同号の四二)

(3)  請求書(前同号の四三)

店主(カントリークラブ入会金)、同(店主小遣)各勘定科目につき、

一、押収してある振込依頼書兼振込金仮受領証一通および振込金仮受領証三通(前同号の七の一ないし三)店主(宝石)勘定科目につき、

一、山内十九之作成の証明書

一、被告人作成の保管証

一、金光由雄作成の上申書

一、証人木島正に対する受命裁判官の尋問調書(昭和四八年一〇月一六日付)

一、押収してある保証書二通(前同号の二)

店主(衣類)勘定科目につき、

一、原一郎作成の証明書

店主(カラーテレビ)勘定科目につき、

一、清水正善作成の証明書

店主(庭園)勘定科目につき、

一、大畠友彦の大蔵事務官に対する質問顛末書

店主(蘭、観音竹)勘定科目につき、

一、第二〇回公判調書中証人松尾武司、同梶原マサコの各供述部分

一、第一〇回、第一二回、第一四回公判調書中証人大可義幸の各供述部分

一、第一七回、第一八回公判調書中証人多賀弘の各供述部分

一、第一六回、第一七回公判調書中証人矢田部英輔の各供述部分

一、大可義幸、多賀弘の検察官に対する各供述部分

一、保岡栄の大蔵事務官作成の写真撮影報告書

一、押収してある仕切複写簿三冊(前同号の三八の一)

店主(自己否認仕入)勘定科目につき、

一、高松武志の大蔵事務官に対する昭和四三年七月三〇日付質問顛末書

借入金勘定科目につき、

一、阿賀信用金庫理事長(昭和四三年八月一日付)、住友銀行呉支店長外一名(昭和四四年二月二二日付)作成の各証明書

一、正力久幸作成の上申書

一、押収してある佐藤邦雄外一名の手形貸付金元帳(前同号の三六)

(検察官の主張を一部排斥した理由等について)

一、持込定期預金及び同預金利息について、

弁護人は、日野市子が存命中の昭和三九年に阿賀信用金庫になした偽名による定期預金八口合計一七〇万円があり、これらはその利息とともに昭和四〇年度中に払戻しを受けているが、検察官主張の同年度分の期首資産等の算定に当つては計算されていないから、これらの金額は同年度分の所得額から控除されるべきであると主張する。

よつて検討するに、高橋盛繁、友清政子、田中久美子、岡田静子、浜崎梅乃、堤清子、山田英子、原弥生名義の各定期預金元帳謄本によれば、阿賀信用金庫に左表のとおり右八名名義の定期預金がなされ、満期以後に利息とともに払戻されていることが認められる。

しかして、右証拠および前掲証人久保勝則の供述部分ならびに関係証拠によれば、右1ないし5の預金はいずれも、架空名義のものであり、その使用している名義、印鑑の印影等に徴し、日野市子がその生前、昭和三九年中に預金し、同女死亡後は被告人がその権利を承継して同女の経営していたパチンコ営業を継続していたことが認められる。しかし、右6ないし8の預金については架空名義のものであることは認められるけれども、これが右市子ないしは被告人に属していたことを認めるに足りる確証はない。

そうだとすると、右1ないし5の各預金は、資産科目の定期預金には計上もれとなつているのであるから、その元金合計九〇万円を昭和四〇年度定期預金勘定に加算し(当期間内に払戻しを受けているから、更に減算するとともに元入金にも同額を加算する。)また元金払戻しと同時に前記のように利息の支払いをも受けているから、この合計五万一、三九〇円を同期の受取利息に加算する。

二、有価証券勘定について、

弁護人は、被告人が昭和四〇年度及び昭和四一年度に取得した割引電信電話債券一六枚額面合計五二万円の実際の購入価額は右額面の半額であつた旨主張するところ、前掲証人日野八重子の供述部分、大蔵事務官木島作成の現金有価証券等現在高検査てん末書、割引電信電話債券写一六枚、呉電報電話局長作成の電話加入原簿登録事項証明書二通によれば、被告人は、昭和四〇年九月三〇日に額面一万円の利付電信電話債券を一万円で取得した外に、電話器の設置、ピンク電話への切替え、あるいは切替式付属電話器の加設等にともない昭和四〇年三月に額面合計五〇万円、昭和四一年三月に額面合計二万円の各割引電信電話債券を取得していること、しかして取得当時の右割引電信電話債券の売出価額はいずれも額面額の半額であり、被告人が取得した右債券の実際の購入価額もその券面額のそれぞれ半額であつたことが認められる。

よつて、検察官が取得価額として主張している右割引債券の券面額のうち、右認定の実際の取得価額を越える部分、即ち昭和四〇年度分の二五万円、翌四一年分の一万円はいずれも当該有価証券勘定にこれを計上しない。

三、店主(生活費)勘定のうち女中給与について、

弁護人は、検察官が被告人の生活費として月額一万二、〇〇〇円宛の女中給与の支出があるとして、各年度ごとに一四万四、〇〇〇円を計上しているのに対し、昭和四〇年一月から昭和四二年一一月までは女中を雇つたことはなく、したがつて、この間の女中に対する給与の支払いはない旨主張する。

第二一回公判調書中の証人日野八重子の供述部分、第二三回公判調書中の証人石丸キヨカ、同向井千代子の各供述部分によれば、石丸キヨカが昭和四二年一二月以降一日六〇〇円の手当支給を受け、月平均約二〇日間手伝いとして働くようになつたことは認められるが、昭和四〇年当初から右石丸キヨカを雇い入れるまでの間、被告人が女中を雇い入れていたかどうかについては明らかでなく、関係証拠によるもこれを肯認することができない。

よつて、右女中給与につき、昭和四〇年および四一年度分の各一四万四、〇〇〇円、昭和四二年分の一三万二、〇〇〇円はいずれもこれを店主(生活費)勘定に計上しない。

四、店主(建物)勘定について、

(1)  検察官は、被告人が自宅建築に関連して上垣邦夫に冷房用ポンプ取付工事の費用として昭和四〇年八月一四日に五万円同年一〇月六日に一〇万円、同年一一月一三日に二万五、〇〇〇円をそれぞれ支出していると主張し、右上垣邦夫作成の上申書二通には右主張に副つた内容の記載(但し、自宅のそれではなく、中通り店舗の工事費用としてのものである。)があるけれども、第一〇回公判調書中の証人上垣邦夫の供述部分によれば、右上申書は金銭出納簿等に基くものではなく、同人のおよその記憶により作成したものであることが認められ右上申書記載の金額に端数もなく、しかも店舗の工事費用だとされていることなどを考え合せると、これをたやすく措信することはできない。

しかしながら、右証人上垣邦夫の供述部分によれば、被告人の自宅建築に関連して昭和四〇年二月ごろ六万二、四四八円の給水工事、同年九月ごろ計七万五、八九〇円の冷房工事および二万五、一三〇円の井戸堀さく、配管工事がなされ、いずれも昭和四〇年度中に同金額の支出があつたことが認められるから、同金額の合計一六万三、四六八円の限度で右費用の支出を認め、残余一万一、五三二円については右店主勘定(昭和四〇年度)にこれを計上しない。

(2)  また、検察官は、同じく自宅建物の建築に関連して、被告人が昭和四〇年五月二二日谷川電気店に配線工事の費用を八、三九〇円支出していると主張するが、取調べた関係証拠によるも確認することができないので、これを右店主勘定に計上しない。

五、店主(蘭、観音竹)勘定について、

(1)  蘭、観音竹のうち、被告人が昭和四一年三月二二日取得した「大雪原」および「大勲」について、検察官は、前者を一六万円で、後者を一〇万円でそれぞれ取得していると主張するが、第二〇回公判調書中の証人松尾武司の供述部分、保岡栄の大蔵事務官に対する質問顛末書によれば、被告人がそのころ取得したこれらの購入価額は大雪原が八万円で、大勲が一万円であつたことが認められるに過ぎないから、右の価額の限度を越える部分一七万円については右店主勘定(昭和四一年度)にこれを計上しない。

(2)  弁護人は、被告人が昭和四二年六月東海錦一鉢を七二〇万円で購入したことはない旨主張し、被告人もこれに副つた供述をしている。しかしながら、前掲証人大可義幸、同矢田部英輔、同多賀弘の各供述部分、大可義幸、多賀弘の検察官に対する各供述調書によれば、被告人が多賀弘を介して矢田部英輔、大可義幸の両人より前記のように東海錦一鉢を購入した事実は優にこれを認めることができるのであり、被告人の前記供部分等は措信できず、したがつて、弁護人の右主張は採用しない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するので、情状により懲役刑および罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、罰金刑につき同法四八条二項により各罰金を合算した金額の範囲内で、被告人を懲役八月および罰金六〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは同法一八条により金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、右懲役刑については情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間その執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

昭和五〇年九月二九日

(裁判長裁判官 久安弘一 裁判官 横山武男 裁判官安次嶺真一は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 久安弘一)

注( )内の数字は検察官の主張額を示す。以下同じ

修正貸借対照表〔Ⅱ〕

昭和41月12月31日現在

修正貸借対照表〔Ⅲ〕

昭和42年12月31日現在

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